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東本町雁木ヴィンテージ

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04/29

Mon

2013

《 吉康一 2 》


 ここで明言しておくべきは、悲しい‟純和製詩人”を愛していると宣言しておきながら、一方で米国製ヴィンテージを偏愛している俺の矛盾だ。
 あっちが大好きでこちらも愛し―。小事ではあるものの、俺のこの組み合わせは、ちょっと、思想と節操がない。精神としての筋が通らない。
 自己弁護するつもりはないが、人間なんて生き続ける限り、みんな多かれ少なかれ矛盾を孕み、罪を重ねてゆくものだろう。俺もその1人だ。まあ、つまり、みんな欺瞞だ。そうじゃなけりゃ、被災者たちは早期に生活を取り戻している。欺瞞に満ちた人間が寄ってたかっている世界だから、平然と見殺しが続けられているんだろう。


 ファッションと雑貨。
 夜の楽しみを続けて3年になる。
 ある日のコーディネートは次の通り。

 部屋着を脱ぐ。
 まずは、BALENCIAGAの白いドレスシャツだ。すっと腕をすべり込ませる瞬間、触れ心地に胸が躍る。湧き水のような聡明さは見た目だけではない。君は美しい。初めて羽織った、あの新鮮さは色褪せない。ポケットなし、ライン命。これ1枚がために体型をキープし続けなければならない。
 Diorオムのブラックジーンズは、クラシカルなストレート。シルエットは完璧。
 靴は、Walk-Overのホワイトバックス。復刻版ではなく、半年かけて探したデッドストック、80年物。
 どのアイテムもとびきりすぎる。風呂上がりの身体だけに許される喜びなのだ。
 鏡の前に立つ。
 どうか、女子にありがちな“1人ファッションショー”などと混同しないでほしい。自己陶酔のために鏡を見るわけじゃない。俺自身は問題にもならない。


          


 服のパターンやカットは、鑑賞に堪えうるアートだ。語る言葉などなくていい。ただ、愛でる。生地の感触に酔う。もし、黒人モデルの足の長さが俺に備わっていれば、王のような服たちは凄みをもって燦然と輝くだろう。
 本物の世界を俺は信じる。美しいものたちは、自らが希望の結晶となり、人びとを照らす。ドラクロワの女神のように。
 この栄光をなんと名づけようか。




 夜の楽しみ、その2。
 室内灯は消し、63年製の灯りをつける。ここまでは毎晩の習慣。
 ステレオの電源を入れ、気分に合わせて音を選ぶ。リラックスできるのがいい。カーティス・メイフィールドが好きだ。気分を出すならシナトラやゲンズブールを。たまにイギー・ポップ、最近のベック、ジム・オルーク。
 次に用意するのは、例えばイギリス製高級ワックス、メガネレンズ用布2種類、ティッシュ、ウェットティッシュ(ノンアルコール)、荒さが異なる紙やすり3種類、毛先を柔らかく保った絵筆の中・小2本、綿棒、テキスタイルクリーナーは麻などの天然素材用と合成繊維用の2種、ストッキング、仕上げのプロテクター。
 使い勝手よく身の回りに配置する。作業の下敷きには、タブロイド判が適すので上越タイムスを。
 今夜の1品を選ぶ。
 家具、雑貨のなかから“そういえば最近してないな”という品物を部屋の中心に持ってくる。軽く息を整える。
 メンテナンスの時間だ。
 大がかりな補修は、すべきかどうかの判断がそもそも難しい。絶妙なバランスで成り立つ本来の形を壊す愚行を避け、手出しは極力しない。俺にできるのはごく限られた単純作業だ。
 丁寧に、優しく磨く。状態を見ながら慎重に、指先の感覚も駆使する。実際にやってみて初めて難しさを実感するのだが、丁寧、優しくの繰り返しに間違いはない。これに尽きる。例えば、パンチングメタルの真鍮製マガジンラックみたいな複雑な形状は、表面を磨き、状態維持の処置を施すだけでは足りない。届きにくい細部の埃まで、見落とさず取りきるのが正しい。
 ブリキ、真鍮、ガラス、プラスチック、木材、リネン、合成繊維、それぞれの手入れ方法は異なる。ひと口に木製と言うが、素材によって扱いを変えなければならないし、湿気と乾燥の問題は常日頃の配慮が欠かせない。
 作業に入れば、難なく没頭できる。他の何かを考える余地が奪われるのもメンテナンスの醍醐味。ふと「ちょっとここは」とか「あ、違うか」などと呟く自分に気づく時がある。最近、増えてきたような気がする。コレクション相手に話しかけることはさすがにないだろうと思っていたが、先週、赤ちゃん言葉を使っていた。ぞっとした。


        


 気分が乗れば夜明けまで。
 飽かず、夢に溺れよう。これは、愛することによく似ている。
 俺の泉。
 安全な世界だ。よほどまともで信じられる。
 明るさとわかりやすさと光は、むなしさとも隣り合っていて、血縁のように親しい。これは数少ない”本当のこと”。本当のことというのは、きっと理屈抜きに居心地良いものなんだ。


 偏った趣向によって俺という人格が形作られてきたことがしだいにわかると、周囲は勘ぐり始める。ここのみんなは俺のことを少し前から疑っている。初めは、誰からともなく囁いたのだろう。
 女には興味が持てないのではないか、と。
 絵美さんと次郎さんが作る、この家の大らかさを気に入っている。化粧品のトシ子さん、ジャズピアノ弾きでもある鍼灸師の安治郎さん、売れ残りのがんもどきや油揚げをつけ届けてくれる“とうふのさとう”さんが入れ代わり訪れる風通しの良さも同様に。
 ちょっと刺激的な話題を提供する住人として、みんなを楽しませるのも悪くない。


 ところで、俺の泉のための資金が底をついた。
 来週から夜はえのきだ。広い作業倉庫で種菌と向き合っている限り、会社にばれる心配はない。
 えのきのバイトは今年に入って3度目になる。


       

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