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東本町雁木ヴィンテージ

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12/03

Tue

2013

《 主8 》
 
 
 「お寺の近くのさ。」
 「うん。」
 「オンボロ工場のさ。」
 「赤茶の屋根の?」
 「知ってる?」
 「昨日、学校でのりお君が幽霊出るって言ってた。」



 「2日で広まったかぁ。」
 「ほんとだと思う?」
 いま時期の、やや小作りな大根をナイロン紐で結わえ、
冬晴れの寒風にさらそうと軒下に吊し始めた戸田次郎は、
2人のやりとりを背中で聞くともなく聞いていた。
 小池の脇で、苔むした石の間に雨水がたまり、昨晩の
うちに凍りついた。後藤マミと戸田省吾はしゃがみ込み、
体を寄せ合い、小枝で薄氷の表面をなぞっている。



学校内でにわかに騒がれ始めた幽霊話に、マミは、
 「誰かの作り話だよ。どうせみんなすぐ忘れるって。」
 と勝ち気に言った。
 「そう思う?」
 「あ、来た!」
 ビュン、と突風が通過し、濃茶や茜色の葉が数枚
舞い降りた。2人はいっせいに立ち上がった。



 「多く取れたら勝ち?」
 と省吾が聞き、マミが、
 「そう!」
 と答える。腕を伸ばし天を仰ぎ、モダンダンスの
ように体を回転させ、滑稽な千鳥足になり、木の葉を
追う。少女は、
 「ママ頑張ってるかなー。」
 と上ずった声を上げると1枚の枯れ葉を両手で挟んだ。
少年は、地面に落ちる寸前の2枚を一度に捕まえると、
 「マミちゃん!」
 手のひらの1枚を見せる。虫に食われたのか穴が開き、
星型を作っていた。再び、一陣の木枯らしが通りがけに
葉を舞わせたが、子どもたちは星をじっと見つめている。



 ふいにマミが、
 「先っぽなくなっちゃったね。」
 省吾の右中指に視線を落としていた。
 「まだ痛い?」
 遠慮がちな声色に、
 「うん、時々。」
 省吾はかつてあった中指の輪郭を左の指でなぞった。
そして、
 「でもだいぶ慣れてきた。ここはもういいよ。」
 前髪を上げ、額を見せた。少女はしばし傷痕をのぞき
込んでいたが、やがて頷き、はにかみながら眉を寄せる
複雑な表情のまま、
 「春が来たらさ。」
 「うん。」
 「またカエルの卵、飼おうね。」





〜おしまい〜

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甘地トシ子
年齢:
71
性別:
女性
誕生日:
1953/03/21

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