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東本町雁木ヴィンテージ

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04/15

Mon

2013

《 主 2 》

 暫くの眠りから覚めて、私が辺りを見渡した時、この下宿の女性用家屋「ごぜさんのほう」では、いままで暮らしていた女が消え、新しい2人がいた。ここを出た者の行方はわからない。
 今度は小学生の女の子がやって来た。
 熱帯のサルを連れている。
 最初、このサルは私の唯一こだわり愛する空間を無遠慮な爪で傷つけはしないかと、気が気でなかったが、とても賢い。女の子をよく見ている。サルの爪は花びらのように小さく、管理人家族の省吾の芯のように柔い。

 母親は端正な顔立ちで、愛想がいい。生来の根が明るいのだろう。
 母親の芯が透けて見える。
 年は若いが、ひどく疲弊している。なぜ絶望しているのか、疲れ切っているのか。見通すのは私にとって雑作ないことだ。

 女の子の芯は、日々、内の核へと向かって小さく硬くなってゆく。母親の事情に起因し、危機を丸呑みしたのだ。
 母子は体こそ寄り合っているが、2人の芯は互いから遠く離れてしまっている。
 探しているのは娘のほうだ。子供には酷な裂傷が癒えるために、また内部深くまで蝕まれて取り返しがつかなくなる前に何らかの糸口が必要なのだが、まだ気配がない。母親の芯は浮き沈みしながらどこへともなく漂流し、娘にとって不在のままだ。


     




 「ごぜさんのほう」の住人は、ほかに2人いる。
 立ち姿の似たうめ・しの姉妹は最古参の住人だ。越して4年目の春が来た。うめは53歳、しのは間もなく45歳を迎える。
 京都生まれで、うめ中学3年、しの小学1年の冬、雪深い高田へ一家で越して以来、ここで育ち、暮らしてきた。

 堅実なうめは“我が道”をゆく。
 妹のしのは依存体質で、姉にはずいぶん前に突き放されている。気が合わないのでひと部屋ずつ借りているが、店を共同で営み15年経つから、ひどく仲が悪いというわけでもない。店はカウンターとテーブル合わせて15席ほどのスナックである。

 うめの強固な芯を支えるのは、緑の世界だ。
 20を過ぎてすぐに華道の免状を取り、生け花を教え始めた。結婚を機に夫の後押しを受け、自宅で華道教室を本格的に開いた。女児を出産後、多い時で50人余りの生徒を有した。
 転機は28の梅雨に訪れる。
 名の通った建設会社で重機オペレーターとして働いていた夫が、地すべり現場での復旧工事中に運転操作を誤り、パワーショベルもろとも15メートル下の沢へ転落したのだ。
 表向きは喪に服す形だが、その実、外出できぬほど1年近く落ち込んだ。華道教室のいっさいをたたんだが、たわいもない世間話が発端となり、元生徒のスナック経営者から店を譲り受ける話がとんとん拍子で進む。決心の末、なじみの家を売り、人生に舞い戻った。
 店の名は、ごりょんさん。


       


 スナック店の切り盛り一筋で来たうめに、再び転機が訪れたのは3年前だ。
 華道師範だった過去を知る仲町のママ仲間に、リニューアルした店舗内のディスプレイを頼まれた。
 しぶしぶ引き受けたものの、何事も手を抜かないうめである。必要な花材は昔なじみの生花店で調達し、野趣を求めて知人の所有する山に分け入り、蔓ものや藪椿を採ってきて、体全体で活け込む力仕事を瞬く間に1人で仕上げてしまった。大人の男が抱えきれぬほど口の広い、大ぶりな花器から緑が広がり、ところどころに散らした白や赤のつぼみがアクセント、まるで宙を這うように独特の曲線を描きながら様ざまな太さの蔓が上下左右非対称に伸びる。
 これがすこぶる評判がよい。
 うめは、意外な感動を覚える自分に戸惑った。教授するほどある豊富な技量を発揮し、基本の型を守りながらところによっては思うままに破り、飛躍する喜びを初めて噛み締めた。
 以来、老舗呉服店や大衆フレンチ食堂、ヘアサロンなどのディスプレイを継続的に手がけている。看板を灯すまで、10分でも惜しんで花材の調達や現場の下見に余念がない。自ら表す世界を僅かでも広げるために吸収できるものがあると踏めば、展覧会鑑賞などのために東京へ出掛けてゆき、開店前に帰ってくる。
 あまり色は使わない。花はポイント使いにとどめるのだ。
 生き生きとした草木の躍動と曲線、一色ではない緑の多様さを際立たせ、空間共々調和させる。これが、いま現在のうめの“我が道”だ。


  


 姉に対し、しのの芯は、形が定まらない。
 男勝りのうめと比べて柳の葉のごとくしなやかで、その時々で近づいてきた男の好みに寄り沿い、着る物、化粧、髪のスタイルなどが変わる。
 意図的ではないにしろ、新たな男が現れるたびに好みや性質までも変容させるのは、この女の宿命か。そうしているうちに、彼女の芯のところどころは極端に凝固してきた。まるで女の業が奇形化したかのようで、容姿とは結びつかぬ薄気味悪さが漂う。20代で1度結婚し、5年ほどで別れ、子供はいない。

   
       


 人間の芯を、私は目で見るのではなく、その人物が纏う気に触れて知る。途端に、過去や事情や性質や心身の現状が、まざまざと、脳裏専用映画のように巡ってくる。瞬く間に小さな旅をする。

 私は、誰か。
 何者か。
 かつて、この狭い世界の主だった。
 このお伽噺においては、私もまた、語り手の1人だ。




《 後藤マミ 1 》

 春はきらい。
 みんな、高田のこと雪国っていう。
 高田に住んでいても春がきらいな人はいるよ、わたしみたいに。
 どうしてみんなふつうなんだろう。
 雪がいえの下半分をうめちゃうのがいいってわけじゃないけどさ。春が来てうれしいのはほんとにいっしゅんだけ。あとはひさんです。
 いつもはれてるのがやだ。
 まぶしすぎる。
 クラクラさせて、強すぎるんだよ。花がさくから、だからなんなの?
 春のせいでまわりの全部がだらしなくふくらむ。
 いやだ。
 わたしもふくらんでしまう。
 気持ちわるい。
  
 今年はひっこしでもっと大変になった。
 ママはすてまくって、だんボールにつめまくって、1週間ずっといかりまくってる。わたしがだらだらしてるから。パパがうわきしたから。
 うわきは、パパがママじゃない女となかよくなったってこと。キスとか。プレゼントしたり2人だけでどこかへ行ったり、けんかしてその後でもっとなかよしになったりしたのかも。男と女はきっとそういうものでしょ?
 男と女はほかにもなにかするよ。映画で、外国のきれいな人とかっこいい人がはだかのままむぎゅうってしてキスした。すごくドキドキした。そのとき、きれいな人が大きく息をすってネコみたいに鳴いたの。

 ああいうこと。
 きれいじゃなくても大人はみんなする?
 笑っちゃった、2人ともまじめな顔してるんだもん。なんかヘンだよ、バカみたい。ちょっとだけきょうみあるけど、大人じゃないからだれとしたらいいかわかんない。


 ママは、‟もとヤン”なんだ。
 C・ローションつけたコットンを顔にぺたぺたしながら、
 「これじゃないとはだあれちゃうんだよねー。いやされるわぁ」
 とか言ってキレイぶってるけど、むかし引きずるくらい長いスカートはいてたの。
 はっきり言って、かっこわるい。
  


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