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東本町雁木ヴィンテージ

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09/02

Mon

2013

《 戸田省吾1、後藤マミ5 》



 青田川のコンクリートのかいだんを下までおりたら、
 「おたまじゃくし、ここで流しちゃった。」
 マミちゃんが言った。ころしてないと思った、と
ぼくが言った。
 「なんでそう思ったの?」
 「わかんない。」
 
 空を見て。
 きょうは赤すぎるよね。黒とまじって、すこしこわいよ。
 屋根やたて物があるから子どもにはわからないけど、
きっと、空が地面にくっつくところでお日さまがもえてる。



 帰ったら、ほんとうのこと言う?
 「省吾君があたしだったら言う?」
 ぼくがマミちゃんだったら。
 「ほんとのこと言ったほうがいい?」
 ぼく、ころしてないのにころしたってうそつかないと思う。
でも、
 「うん。ぼく、話すと思う。」
 転んだから、マミちゃんの自転車は、前と形がちがう。
ちょっとまがっちゃった。
 いたかった?
 「でもあの人はいいや、きらいだから。」
 「でも、じゃあみんなには言う?」
 急に止まって、
 「あたしなんて、もうパパといっしょにいられないからね。」
 僕をにらんだ。
 「おこらないで。」
 もうすぐ夜だね。
 夜になるのに暑いままだね。マミちゃん、さっきどうして
ないたの?
 「パパといっしょにいられないの?」
 「そう。永遠にだめ。」
 永遠のことがよくわからないんだ、ごめんね。かわりに
自転車をひいてあげる。
 マミちゃん、ムクドリとカラスがあっちの空に飛んでいくよ。
 「にがしてごめん。」
 「え?」
 「いじわるしちゃった。」
 空のあっちのほうには大学があって、そのまわりの林や近くの
山にムクドリとカラスが帰っていくんだって。
 「まだ2ひきいるからいいよ。マミちゃんてよんでもいい?」
 「うん。まーみんてよぶ人もいるよ。どっちでもいい。」
 「ぼくマミちゃんにする。」
 あーあ。
 夏休みおわっちゃった。


 
 
 


《 亜美3 》
 

  
 「いいよ~、話して話して。」
 むっちゃんは笑ってくれた。
 「さっきの、彼氏君のくせがどうのこうのって話は?」
 千成の小上がりで1人用の釜飯の木蓋をさっと閉め、
しゃもじについた米粒を箸で手早く取りつつ、あたしを促した。
さすがむっちゃん、箸さばきも器用。



 「もとき君てすぐこうやんの。手つないでる時とか。ここの、
人差し指の爪と皮膚の間あんじゃん。」
 「うん。」
 「あたしの人差し指のここの間を、自分の人差し指で…
こういう感じかなあ。こんなふうにさわってくるの。
ずーっとやってんの。」



 「子供じゃん。なんだろう、くせ? 心理的な暗示?」
 「前聞いてみた、くせみたいだけどなんでって。本人は無意識
らしいんだよね。基本的にかなり心を許せる相手じゃないと
しないみたいなことは言ってた。甘えたいんだと思うって。」
 社会人になってすぐ美容院を変えて、むっちゃんに髪を切って
もらうようになった。むっちゃんは2コ上だけど、なぜか最初に
会った時から気を使わないで喋れて、すぐ仲良くなって、一緒に
ご飯食べたり飲んだりしてきた。去年、むっちゃんは結婚して
青海に越したから、深夜まで遊べなくなった。
 久しぶりに千成に行って五目釜飯を食べた。むっちゃんに
あんなバカ話を聞かせて、イチャついて撮った画像とか
見せちゃって申し訳ないことした。結果、あんなヤツだったし。
自分のバカさ加減を思い出すと死にたくなる。死なないけど。

 4ヵ月前。
 キスの途中でも腕枕や膝枕してる時でも抱き合ってる時でも
なく、あいつはお茶を飲みながら言った。



 「ここに誰か入れたの初めてだ。」
 あの時、あたしがどんな気持ちになったと思う?
 あの嘘はだめだよ。
 恋愛こじれるのは女が悪いみたいに世の中って言うけど
そうじゃない。きっかけは男が作ってる。
 東本町1丁目にあいつが住んでる寮みたいな家がある。
ほかの人とシェアして住んでる。
 台所と居間を通らないとあいつの部屋まで行けなくて、
 「音立てちゃだめだよ。」
 玄関の引き戸を開ける前に念押ししてきたから、こっちも
小声で、
 「だってみんな寝てるんでしょ?」
 「だから音立てて起こしちゃマズイっしょ。」
 「そっか!だね。」
 「亜美ちゃんさ。」
 「なに?」
 「バカなの?」
 履いてたヒールを片手に持って、右手であいつのパーカーの
裾を掴んで暗がりをつま先立ちで歩いた。
 「ないねー。」
 部屋は、見た目が静かだった。物が少なくて、人がごちゃ
ごちゃと生活している空気がない。隅に置かれた姿見が光ってる。
 「仕事着はここで、普段のTシャツ類とシャツはこっち。」
 あたしの反応を面白がって押し入れの収納ケースや小さな棚の
説明をひと通りすると、キッチンで番茶を入れて持ってきてくれた。
猫舌らしくて10分くらいずっと冷ましてて、ひと口飲んだ後、
ぼそっと言った。あ、ここに誰か入れたの初めてだ、って。
 「金沢とこっちだとさ。」
 「うん。」
 「海は違うもん?」
 「あー。どうだろう。冬は鉛色だし、波は荒いし、真夏は青緑
だし。あんま変わんねーべ。この前、亜美さ、仕事の途中に通り
かかったって、画像送ってくれたじゃん。」
 「うん。」
 「青緑までいかなくても、あのくらいで十分きれいだよね。」
 「今度行こう。」
 「その前に亜美の話してくれたとこ行くべ。」
 かたくなに隠してたとかそんなに大げさな話でもないんだけど、
あの場所のことを今まで誰にも話してこなかった。かわいがって
くれて今はもういなくなった人が連れて行ってくれた秘密がある場所。



 「かなり車でのぼるんだっけ?」
 「そう。頂上に立つと、風が下から吹き上がってくるの。
もときくんに見てほしい。」
 「実はもう男とか連れてったとかない?」
 「は?」
 「もときくんだけだよって言え。」
 「えー。そういうの気持ち悪いよ。」
 「いいからいいから。」
 「や、さわんないで。」
 「いいから言ってみ。」
 言い終わらないうちに、あいつは体重をかけながら、舌を入れ
ないのにねっとりとキスをした。
 「言えよ。」
 「…」
 「言えって。」
 息を整えないといけない。こめかみから耳の辺りに血が熱が
集まって、こもってしまう。自分が遠くへ行ってしまいそうになる。
 「…たぶん。」
 「うん。」
 「このままつき合っても、面白くないと思う。」
 「は?」
 「出し惜しみじゃなくて、単に、実力ない女子っていうか。
人間力ない人だから。」
 あたしの血があたしの体を駆ける。ジンとした痛痒さ、鼓動の
速さを引き連れて駆け巡る。
 あの時、どんな気持ちだったと思う?
 「だから?」
 「代わりに。あの頂上から見えるものをきみにあげる。
秘密だったけどあげる。今まで人に教えたことなんてない、
一度もない。もときくん特別扱いしてあげるよ。あたしの中では
これはすごいことだからね。5年に1回あるかないかだから。
たぶん、もうこんなこと言う…え?」
 「…」
 「どうしたの?」
 「……いや。わかんない。」



 なぜかは知らない。でもどうすればいいのかわかった。
 唇をスポイトみたいにして、彼の涙をスッと吸い込んだ。
目を覗いたら、あたしの姿は見当たらなくて、永遠の気配
だけがして、それでいいと思った。
 彼とあたしは喋らなくなって、音を立てないように
セックスした。午前3時前にあの家を出た。家から少し
離れた路上に止めた車まで彼が送ってくれた。
 宝物を見つけたと思った。






 「もしもしむっちゃん?」
 「いまちょっとい?」
 「うん。」
 「さっき、あみちゃんの彼氏君みたいな人が店来たよ。」
 「みたいな人?」
 「たぶん間違いないと思う。」
 「へー。カット?」
 「ううん。女の子迎えに来たよ。」
 「え?」
 「私のお客さんじゃないんだけど、広川さんて20歳
くらいかなぁ。貧血でしょって後でみんなで言ったんだけど、
髪切りに来てすぐ具合悪くなっちゃって、シャンプー台まで
歩いてて倒れたの。その後すぐ意識が戻って、本人も大丈夫
っていうから、しばらく休憩室で横になってもらったんだ。」
 その女を迎えに来たのがあいつだって。あいつとぴったり
密着した女が去り際に、ごめん泊まり無理だ、て言ってるのを
店の軒先で閉店準備してたむっちゃんが聞いた。



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