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東本町雁木ヴィンテージ

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08/12

Mon

2013

《 亜美 2 》



 時々、新しい恋が訪れる。
 あたしは簡単にハマる。頭の中が彼でいっぱいになる。
 足が泥沼に入ってって深みにどんどん向かって、
たぶん泥なんだけど、飲んでも溺れてもかまわない。



かまわないってあきらめたつもりはないけど、いつの間にか
そうなっちゃうっていうのを繰り返してきてる。
 普通、自分のために大切なことは他にもっとあるでしょ。
でも脳が恋愛モードに突入するとだめ。全部、台無しだよね。
喜びは最初の少しだけで、関係が変わって、相手の気持ちが
冷めて、あたしも相手から離れて、って。結局は消える。
恋はそういうもの。

 あたしが相手じゃ、男は変わらない。
 映画とかドラマであるけど、性格悪い(or変わり者の)
男が運命の女と出会って、はじめはそうでもないんだけど、
しばらくすると運命の女の影響を受けまくって、物事の
感じ方まで変わっていって、女のほうも変わっていって、
なんだかんだあって、そうか好きなんだってなって、
気持ちを伝え合ってハッピーエンド。作り物じゃなくても、
実際、恋とか愛は人を変えてしまえる。
 あたしは変わりたくなくても変わっちゃう。
 でも相手は変わらない。新鮮さも喜びもすぐ程度が
知れる、男にとってたぶんあたしは底の浅い女止まり。

 もっときれいだったら…。



 1番苦しいのは自己否定なんだ。そこには絶対落ちちゃだめ。
 「今度こそ愛されるってまた勘違いしたの?」
 自己否定は最悪。ホントよくない。つらくなって心の中で叫
ぶの。

 もう十分わかったから、思い知ったから許してください!

 残念だけど、あたしは愛されない。できることは一生懸命、
心を込めてきたけど伝わらない。なんで?あたしおかしい?
たくさん欲しいわけじゃないのに。
 でも実は、女なんてみんなだいたいこんな感じなんじゃないの?

 今も苦しい。
 許さない。林田ってヤツ。


  
 



 
  
 
 
 
 
 《 戸田絵美1 》
 
 
 


 まちも人も気が抜けちゃったみたい。
 熱帯夜が巡ってきた。そよ風は昼夜を通して
ぴたりと止んだ。このタイミングでお父ちゃんが
休日の昼食を作ってくれるのはかなり助かる。
首に冷やしタオルを巻いて、カレーの仕上げをしている。
正午をはさんだ数時間は特に、お勝手がさらなる酷暑になる。



 午後からフラの教室に行かなくっちゃ。
 料理が億劫なのではなくて、暑さが厄介すぎる。
お父ちゃん、板金のバイトをいっそ夏だけ休んで、
昼食係してくれたら天国だなあ。拝んじゃうなあ。
バイトを休んだ場合、家計的にそんなにまずいものかね。
 「それはまずいさ」
 確かにそうだ。
 去年の夏、初めてTikiさんに行ってしばらく経って
から、グリーンカレーやパッタイをたまに作ってくれる
ようになった。グリーンカレーは辛すぎて、子供2人が
食べられないし、林田君も苦手。そこで結局、食べたい人は
お店に行くようになった。作ってくれるのはもっぱらパッタイ。
 今度は、Tikiさんのマスターから夏野菜レッドカレーの
〝簡単レシピ〟を伝授してもらってきた。ほぼ辛さはないそうで、
貰い物のズッキーニやナスや色つきピーマンを活用できるから、
これはいい。



 ところで、私はいつからお父ちゃんのことをお父ちゃんって
呼んでいるんだっけ?
 「聞かれてもなあ。それはえみさんの記憶の問題じゃないかい?」
 確かにそうだ。
 最初は次郎さん、省吾が生まれてパパになった。お父ちゃんは
省吾に父ちゃんと呼ばせたがり、省吾は父ちゃんと呼ぶように
なった。私はパパのままだった。そうこうしているうちに
ハルニレ荘を始めた。
 「あ」
 「思い出した?」
 じゃことサニーレタスをオリーブオイルで和えなくちゃ。
あとは、くし切りトマト、シソの葉とキュウリの即席漬けを
出せば完璧だ。


 11時45分を過ぎると、「食堂」に人が集まり始める。
吉君は休日出勤、林田君はまだ寝ている。庭で遊んでいた省吾が
手を洗って一番乗りした。
 「ねえ」
 「麦茶は?」
 「ねえ。池のおたまじゃくし、どこかに行ったみたい。」
 ひと晩でカエルになって引っ越したなんて話、聞いたことがない。



 「いい匂いねぇ。」
 うめ・しのさんのうめさんのほうがやって来た。
午後からは美容院の花生けに出かけるはず。
 「お父ちゃん初挑戦のカレーですよぉ。」
 「まあ、いいわね。」
 うめさんには無駄な動きがない。ちっとも騒がしくせずに食器を
手早く出し、コップに麦茶を注ぐ何気ない所作も、イスに腰掛けた
姿も美しい。いつも背筋が伸びている。きっとインナーマッスルが
しっかりしているんだと思う。筋肉にも人柄が表れている。
気丈夫なんだ。
 「あ、うめさん早い。お花?」
 文子さんとマミちゃんも2階から降りてきた。
 「そうなの。マミちゃん、麦茶どうぞ。」
 うめさんが麦茶をスッと出す。スマートだ。


 


 「いただきます。」
 まだ寝ている林田君は置いといて、しのさんもそろった。
しのさんのことを、私は退廃の人だと思っている。



崩れそうな危うさを纏っている。つい妄想してしまうんだけど、
しのさんからはいろんな物語が生まれてくる。ある時は戦争
未亡人で、この前は若い僧侶に恋をする幽霊だった。
 「うめ・しのさんがここに越してこられた時、私、お父ちゃんの
こと、もうお父ちゃんて呼んでましたっけ?」
 「なに、どういうこと?」
 文子さんはいつも反応が早い。先ほどの、お父ちゃんとの
やり取りをひと通り説明した。
 即席漬けのカリポリという小気味よい音をさせていたうめさんが、
 「私、覚えてる。」
 と隣りに座っていたしのさんの腕をさっと掴み、関西弁の
イントネーションで、
 「ここやったかなあ。どやろ? …省吾君まだちっちゃくて、
そこらで遊んでたわ。私らと絵美さんら夫婦と4人で喋ってて、
うちらの実家のほうでは、父親のことをお父ちゃんって呼ぶ家庭
がわりと一般的やったよって、うちらもちっさい頃からそうやったし
って、そんな話してん。そしたら絵美さんが、それすごくいいです
ねって気に入ってさ。それからちゃう?」



 「わあ、うめちゃん何でもよう覚えてるな。」
 しのさんが目を見開いた。最近、富みに表情が明るくなった気がする。
 「そんなことでしたかねえ。絵美さん思い出した?」
 全然、わかんない。でも、
 「そうだったんですね。なんか。はい。すっきりしましたぁ。」
 「昨日までいたのに!日記書けない。」
 突然、省吾が甲高い声を出した。
 「どうしたの?」
 「おたまじゃくしが消えたんだって。」
 「あら。」
 「そんなことないでしょう。」
 「あとでもう一度よく見てごらん。」
 「あたし知ってるよ。」
 マミちゃんが呟いた。
 「気持ち悪いから土に埋めたの。」



 

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